2007年10月17日水曜日
アラブ文学を日本語で探検する
日本の皆様、大変お待たせしました。ずっと前からブログを日本語で書こうと思ったものの、なかなか時間がとれなくて、英語のほうでも月に一回しか投稿していない状態が続きました。自分の生まれつきの惰性を深く反省しています。これから、日本語での投稿にも少しパワーアップしたいと思います。
来月、日本語の新著・『世界文学のスーパースター夏目漱石』が講談社インターナショナルに出版される予定なので、最近、その本の校正などで忙しい日々を送っていました。最初の日本語の本(『日本人が知らない夏目漱石』)は自分で日本語で書いたが、今度の本は英語の原稿を翻訳してもらったものです。原稿の内容については何もいえませんが、翻訳のほうはうまいと思っています。先日、原稿を日本人のお友達に読んでもらって、その感想を聞きました。「面白い!読みやすい!君が普通に書く堅苦しい文章とまるっきり違いますね。翻訳してもらってよかったね」とか。褒められているか、非難されているか、あまりよくわからないぐらいです。
先週の日曜日、久しぶりに神戸市立博物館を訪れて、「インカ・マヤ・アステカ展」を見ました。私は中米へ行ったことがないので、この三つの偉大文明についてあまり詳しくないです。スペインの中南米征服を語る歴史本を読んだり、テレビ番組を見たりしたので、アステカの神殿で生贄の儀式などが行われたことぐらいは知っていたが、インカ・マヤの宗教でもその伝統があったとは知りませんでした。「生贄」に関する展示品は血も凍るほど恐ろしい。。。でも興味深い。その展示を見て、中南米の古典文化についてもっと調べたいと思いました。ああ、来年は、中米への旅行を計画しなきゃ。。。
日本にいる間に、「日本はどうですか、好きですか?」などというややありふれた問いが頻繁にかけられているが、実は、日本にいると、ぜんぜん「外国」にいると思っていません。イギリス人でありながら、日本を第二の故郷と勝手に思っているし、日本の習慣などにすっかり馴染んでいるので。逆に、日本にいると、「日本文化」を考えるより、日本語を通して、あまり知らない文化を探検することが面白いです。
たとえば、私はアラブ文学に大変な興味を持っています。十数年前から、アラブ文学に関する知識がゼロに近いということが気になっていたが、どういう本を読んだらいいかまったくわかりませんでした。第一に、有名なアラブ文学者の名前は一つも知りませんでした。そのために、アラビア語圏についていろいろな本を読んでいたが、そのほとんどが欧米人に書かれたものでした。
そして、たまたま、去年の『ロンドンタイムズ』に、ナギーブ・マフフーズというエジプトの国民的な作家の死亡記事を読みました。記事によると、マフフーズはノーベル文学賞を受賞したアラビア語圏の唯一の作家でした。しかし、その記事はマフフーズに対して少しあいまいな態度をとりました。マフフーズの文学をある程度まで評価していたものの、「欧米文学」とは比べ物にならないと言い張りました。然し、私はその評価を怪しい目で読みました。是非、自分自身でマフフーズの小説を調べたいと思いました。
まず、いくつかの小説を英語で読みました。『我が町内の子供たち』、『ナイルでのおしゃべり』、『イクナートン』、『テーベの闘い』。正月に、エジプトにも小旅行しました。そして、日本に戻って、梅田の紀伊国屋で東京外国語大学教授・八木久美子氏の『マフフーズ・文学・イスラム』という本を見つけました。この本がマフフーズの文学を最初から最後まで系統的に紹介しているし、二十世紀のエジプトの政情・歴史などを説明しています。アラブ文学の入門書として不可欠な一冊であると思います。コプトというエジプトのキリスト教徒の存在がどういうふうにエジプトの「国家主義」と関連しているという話は特に面白い。スーフィズムの話も。参考文献を見ると、八木氏は日本語やアラビア語の本はもちろんのことで、英語やフランス語の本も読んでいるのでその博識に頭を下げます。
マフフーズの文学のなかでどの作品が一番面白いでしょうか?私は『カイロ三部』をまだ読んでいないですが、まったく素人の意見を申し上げると、マフフーズの天才的な作品があれば、ちっとも面白くない作品もあるとおもいます。たとえば、初期に書かれた「歴史小説」(『テーベの闘い』など)は読まなくてもいいと思います。晩年の『イクナートン』も特に面白いとはいえません。しかし、間違いなく、『我が町内の子供たち』が二十世紀世界文学の傑作であると確信しています。邦訳はまだ存在していないので、八木氏のような優秀な学者が翻訳すればいいと思います。
では、日本の皆さん、今日はここまでです。次回の投稿を楽しみにしてください。
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